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【事故を誘発】ダイビングにおける「モラル・ハザード」について
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今回はダイビングにおけるモラル・ハザードについての考察をしていきます。

「モラル・ハザード」の意味については後述しますが、ダイビングに対する安全意識に触れると思って頂ければOKです。

 

この記事の目次

はじめに

1984年にダイブコンピューターが誕生してから40年弱、今ではダイビングに欠かせないアイテムの1つになりました。

普及率は90%以上とも言われ、器材を買うならまずダイブコンピューターからとまで言われることも多いです。

最新のダイコンはカラー表示のものも多くなり視認性の向上、マルチガスへの切り替え、ディープストップ機能の搭載など機能も増えてきています。

 

そして近年では・・・

  • エンリッチドエアを使ったダイビングにより、疲労度の軽減(諸説有り)や窒素摂取量の抑制
  • サイドマウントによるバックアップ器材(予備タンク)の持込み
  • 教育プログラムの向上

 

上記のようなダイビングスタイルやサービスの変化によって、より安全に楽しくダイビングをすることが出来るようになっています。

 

近年の事故件数の推移

では実際に安全になってきているのか?

ダイビングでの事故はなくなってきているのかが気になるところ。

 

近年(2010年~2020年)の事故件数をまとめた図がこちらです↓

 

 

このグラフは減圧症や外傷、溺水なども含んだ総計ですが、はっきりと「減った!」とは言い難いですね。

(昨年2020年はコロナウイルスの流行によりダイビング参加数が減少していたこともあり、事故件数は減っています)

 

もっと昔まで遡ると減少傾向にはあるのですが今回は割愛。

ここからは何故潜水事故が減りにくいのかを考察していきます。

 

 

モラル・ハザードについて

ここで言うモラル・ハザードとは「保険におけるモラル・ハザード」のことを指しています。

 

「モラル・ハザード」は本来は保険業界で使われていた用語で、「保険によって事故が補償される」という考えが醸成され、被保険者のリスク回避や注意義務を阻害するという現象を指す。この場合の例としては以下が挙げられる。

自動車保険において、保険によって交通事故の損害が補償されることにより、「軽度の事故なら保険金が支払われる」という考えが醸成され、加入者の注意義務が散漫になり、かえって事故の発生確率が高まる場合。

医療保険において、診察料の半分以上が保険で支払われるために、加入者が健康維持の注意を怠って、かえって病気にかかりやすくなる場合。

絵で見るとこんな感じでしょうか↓

 

 

【考察】ダイビングにおけるモラル・ハザード

 

ダイビング事故が減少しない背景にはこの「モラル・ハザード」が係わっていると考えます。

ダイビング環境の変化・安全装備の充実によるリスク管理意識の低下が起きているように思えます。

少しだけ例を挙げてみましょう。

 

エンリッチドエアの場合

 

エンリッチドエアのメリット

  • エア(空気21%)に比べ、体内残留窒素が減少する(同ダイブタイム
  • 無限圧潜水時間(NDL)が増える
  • 窒素酔いしにくい(エアに比べ限界深度の制約が厳しい為

 

モラル・ハザード

  • NDLの増加によりNDLギリギリまでダイビングを楽しんでしまい、結局エアと同じ体内残留窒素量になる
  • 窒素酔いしにくという安心感からより高深度へ潜降してしまう

 

無限圧潜水時間が増えるというメリットに目が行ってしまい、エアと「同ダイブタイム」での体内残留窒素が少ないということを忘れがち。

その結果どんなに長く潜ってもエアを使うよりは減圧症のリスクが低くなると勘違いしてしまいます。

 

 

上記の図はダイブタイムの経過による体内の窒素量を簡単に表したものです。

(実際はもっと複雑なものです。またこの図では浮上時の窒素排出の優位を含んではいません)

 

これを見ると確かに同ダイブタイムでは体内残留窒素が少ないです。

が、仮に100%のレッドラインへの到達で減圧症になるとすると、長時間潜ればエンリッチドエアの場合もエアと同じように減圧症を発症します。

 

また窒素酔いについては、原因になる窒素が少ないことで発症リスクが少ないとは言われます。

しかし窒素酔いなどのナルコーシスには個人差があります。

発症基準は水深30m程度といわれていますが、それより浅い深度で発症する可能性も払拭出来ません。

 

エンリッチドエアは酸素の含有量が多いので、高深度での酸素中毒のリスクが高まります。

そのためエアに比べて限界深度が浅くなっています

エアを使った他のダイバーと一緒に潜っていると深度への注意を怠りついつい深場へなんて可能性も。

 

 

ダイブコンピューターの場合

 

ダイブコンピューターのメリット

  • 勝手に無限圧潜水時間(NDL)を計算してくれる
  • NDLを超えた場合も「DECO*」を表示し教えてくれる
  • 安全停止時間や「DECO」時の手順を教えてくれる
  • 浮上スピードが速いと警報を鳴らしてくれる
  • ものによっては残圧まで表示される

DECO・・・decompression(減圧)の略、レジャーダイビングの枠を超えて緊急の減圧手順が必要になる。良くないこと。

 

モラル・ハザード

  • NDLの限界まで潜ってしまう
  • 「DECO」が出ても消せば大丈夫と思ってしまう
  • 浮上速度を警報便りにしてしまう
  • 残圧表示の不良を考えない

 

ダイコンがない時代、また使わないときはRDP(recreation dive planner)などのダイブテーブルを参考にダイブタイムを決定していました。

ダイブテーブルは基本最大深度での算出になります。

そのため決められたダイブタイムを目標に徐々に深度を浅くしてダイビングを続けると、結果的に控えめな減圧計算になります。

それに比べてダイコンを使用するとどんな深度でもNDLを計算してくれて、エアが続く限りNDLギリギリまでダイビングをすることが可能になります。

 

NDL内のダイビングならまだマシですが問題は「DECO」が発報したときです。

この「DECO」、発報してすぐにゆっくりと浮上していけば消すことが出来ます。

するとどうなるか、

 

 

こうなってしまうんですね。

「DECO」が出てもゆっくり上がれば大丈夫!という前提のダイビング。

「DECO」が出てしまう時点でレジャーダイビングの枠組みから外れてしまします。

「控えめなダイビングをしましょう」とか言う以前の問題です。

せめて、

不注意から「DECO」が発報してしまった→すぐにゆっくり浮上しよう→反省しなきゃ。

なら次回から気をつけることが出来ますが。

 

その他のモラル・ハザード

 

器材などの充実による安全意識・危機感の低下が主です。

  • ダイビングベルやフロートを持つことから起きるバディとの距離の開き
  • 酔い止めへの過信、睡眠不足やそのた酔い止め対策の怠り
  • サイドマウントによるエア残量の増加に伴うダイブタイムの延長
  • バディへの信頼に依る自己装備・スキルの怠り・低下
  • 初心者ポイント(すぐに浮上できる、監視人がいるなど)だからと適当なダイビング計画を立てる

 

 

まとめ

今回は潜水事故が減らない理由を考察してみました。

 

「モラル・ハザード」と言われるものによる

  • 安全意識・危機感の低下
  • リスク回避の怠慢

が事故背景の一角であると考えます。

 

「モラル・ハザード」を防ぐ為には

  • 緻密なダイビング計画を立てる
  • 器材・ダイビングスタイルに対する正しい知識の習得
  • 計画を立てた上で控えめなダイビングをする
  • バディ距離を保つ

このような本来当たり前のことを当たり前に行う必要があると思います。

自分が安全に潜れているかを振りかえってみることも大切ですね。

 

また近年の事故は初心者だけでなくインストラクターやガイドのスキル不足・監督義務の怠慢によって引き起こされるものも増えています。

日本は特にインストラクター・ガイドに依存しているとも言われます。

依存先に不備があれば事故が起きるのも当然と言えるでしょう。

自分自身のスキルをしっかり磨くことやバディシステムを強化することも事故を防ぐためには必要ですね。

 

 

今回はこれでおわりです。

「モラル・ハザード」に陥ることのないように意識して、楽しく潜りましょう!

それでは。

 

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